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岡山地方裁判所倉敷支部 昭和52年(ワ)234号 判決

原告

三好荒一

被告

植野清

主文

一  被告は、原告に対し、金九八六、一七〇円及び内金八九六、一七〇円に対する昭和五二年二月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

1  被告は原告に対し、金一二、三六五、七五七円及びこれに対する昭和五二年二月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並に仮執行宣言を求める。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和四九年四月一七日午後五時項

(二) 場所 倉敷市茶屋町早沖一〇五一番地先道路の交差点

(三) 被害車 原告運転の自動二輪車

(四) 加害車 被告運転の普通自動車

(五) 態様 前記交差点において、南北路を南進中の被告車と東西路を西進中の原告車が出合頭に衝突。

(六) 傷害 原告は、右大腿骨々折、右腓骨々折、右足骨折変形、皮膚欠損、右足々底神経損傷等の傷害を受け、昭和四九年四月一七日から同年八月三一日までの間帯江外科医院に入院し、同日から同五〇年一二月二七日までの間川崎病院に入院し、その後今日まで川崎病院及び佐藤整形外科医院に通院し、治療を継続している。なお、同五二年五月一一日から同年七月一四日までの間、川崎病院に再入院している。

2  責任

被告は、運行供用者として、自賠法三条により、賠償責任を負う。

3  損害

(一) 治療関係費

(1) 治療費 四三、八六八円

(但し、昭和五三年一一月一日から同五五年一月末日までの間の川崎病院での治療費)

(2) 入院中雑費 三四二、〇〇〇円

(一日五〇〇円として入院日数六八四日分)

(3) 医療品等の買入代金 一二四、三一〇円

(4) 付添費 一、〇九二、〇〇〇円

(5) 通院中交通費 三一、六八〇円

(昭和五三年一一月一日から同五四年一〇月三一日まで川崎病院へ通院四四回分、一回七二〇円の合計)

(6) 松葉杖 四、〇〇〇円

(二) 不具となつたため生活様式変更による寝室、風呂の改造経費 六八八、四二四円

(三) 休業損害 四、一四六、二五八円

(1) 年収 菓子、荒物小売業を営み、昭和四八年度純所得は金一、六九二、三五一円。うち三割は妻の内助によるものとし、七割の一、一八四、六四五円は原告の固有の所得。

(2) 休業期間 昭和四九年四月一七日から同五二年一〇月八日までの間。

(四) 逸失利益 六、〇八一、九六七円

(1) 年収 一、一八四、六四五円

(2) 稼働可能年数 昭和五二年一〇月九日(原告は明治四四年生でこのとき六六歳)から六年間

(3) 一、一八四、六四五円×五・一三四=六、〇八一、九六七円

(五) 慰藉料 五六八万円

(1) 入院中慰藉料 二三〇万円

(2) 通院中慰藉料 一七〇万円

(3) 後遺症慰藉料 一六八万円

(六) 弁護士費用 一〇〇万円

(七) 損害の填補 六、八六八、七五〇円

4  結論

よつて、原告は被告に対し、一二、三六五、七五七円とこれに対する昭和五二年二月一七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(五)は認める。同1(六)は不知。

2  同2は認める。

3  同3は争う。

原告は、自賠責保険等から九、二三五、〇五〇円を受領している。

三  抗弁(過失相殺)

原告は、徐行義務、安全確認義務に違反している。

第三証拠

本件記録中の証拠等関係目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1(一)ないし(五)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲二号証の一ないし三、同三号証の一ないし一三、同四号証の一ないし四、弁論の全趣旨から成立の認められる甲二七号証の一、二によると、請求原因1(六)を認めることができる。

二  請求原因2は当事者間で争いがない。

三  抗弁について

成立に争いのない甲二三ないし二五号証、原・被告本人の各供述によると、本件事故現場は幅員約三・五メートルの南北路と幅員約三メートルの東西路が交差する交通整理の行なわれていない交差点であること、被告は南北路を南に向つて普通自動車を約六〇キロメートルの高速で運転し、徐行、安全確認をせず、そのまま交差点に進入したこと、一方原告は東西路を西に向つて自動二輪車を時速約三〇キロメートルで運転し、交差点手前で前方のミラーを見ただけで徐行せず、そのまま交差点に進入したこと、右ミラーは交差点の南側が見通せるが北側が見通せないこと、が認められる。原告が交通整理の行なわれていない交差点に進入するに際し、交差道路(ことに被告車が走行してきた北側)の安全を十分確認せず、かつ徐行もしなかつたという過失があり、右原告の過失が本件事故発生に三割程度寄与しているとみることができるから、原告に発生した損害から三割を過失相殺として控除するのが相当である。

四  損害について

別紙のとおりである。

五  以上によると、原告の本訴請求は、金九八六、一七〇円と内弁護士費用を除く金八九六、一七〇円に対する本件事故発生の日の後である昭和五二年二月一七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるから認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田勝之)

〔別紙〕

(一) 治療関係費 3,749,838円

(1) 治療費 43,868円(但し、昭和53年11月1日から同54年10月31日までの間の川崎病院支払分―証人三好文女の供述(第2回)により成立の認められる甲29の1ないし6・8ないし50)

(2) 入院中雑費 342,000円

1日500円×入院日数684日

(3) 医療品等の買入代金 44,310円

別紙明細書(イ)、(ロ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)の分(証人三好文女の供述(第2回)の供述、これにより成立の認められる甲5の1ないし6、甲6、甲8の1・2、甲9、甲10の1ないし5、甲11の1ないし7)

なお、同明細書(ハ)の冷蔵庫代は本件事故と相当因果関係にたつ損害と認められず、(チ)の輸血代については立証がない。

(4) 付添費 730,000円

2,000円×365日(成立に争いのない甲3の1ないし4、前認定の受傷の部位、程度に照らすと、入院後1年間につき妻の付添看護料を認めるのが相当である。)

(5) 通院中交通費 19,360円

川崎病院へ昭和53年11月1日から同54年10月31日までの間44回通院、1回の通院費440円の合計(証人三好文女(第2回)の供述、甲29の1ないし50)

(6) 松葉杖 4,000円(証人三好文女(第1回)の供述、これにより成立の認められる甲21)

(7) 保険金より支払を受けた治療費2,566,300円(被告本人供述、弁論の全趣旨)

(二) 不具となつたため生活様式変更による寝室、風呂の改造経費 0円

岡山労災病院に対する鑑定嘱託の結果、原告本人の供述によると、原告は右下肢の短縮と足関節の固定により、日本式の生活様式は不便であり、洋式に改造すると便利であることが認められるが、住居の改造が絶対的、不可避的に必要とまでは断じがたく、結局上記事情は慰藉料のしん酌事由にとどまるものと考えるのが相当である。

(三) 休業損害 2,030,820円

原告本人、証人三好文女(第1回)の各供述、これらの供述により成立の認められる甲22によると、原告は、本件事故当時、三好商店の名称で菓子日用品小売業を営んでおり、店舗をかまえ、妻文女と二男宗治が店を手伝つていたこと、昭和48年度の青色申告による所得は少なくとも1,692,351円であつたこと、本件事故後は妻と二男が店を続け、現在では二男が他に勤務しているため妻が中心となつて店を営み、原告は店番を手伝う程度であることが認められる。ところで、企業活動による収益は経営者個人の力だけによるのでなく、他の人的組織、物的設備等によりあげることのできるものではあるから、上記の申告所得をもつてただちに原告の逸失利益ということはできず、企業収益中に占める経営者の個人的労務の割合を基準として原告の逸失利益を算定すべきものである。前掲各証拠から認められる原告、妻、二男の事故前の営業活動の内容(原告は商品仕入、注文受け、店番、配達、記帳等営業の中心的役割を果していた。妻は店番、二男は仕入と配達をなし、いずれも原告を手助けしていた。)、対外的信用(原告が対外的信用の中心)等を勘案すると、上記小売業収益に対する原告の寄与度を6割程度(1,015,410円)とみるのが相当である。

前認定の入通院状況に照らすと、原告が本件事故により全く稼働できなかつたことにより被告に休業補償を請求できる期間は、事故のあつた昭和49年4月17日から2年間経過した同51年4月16日までとみるのが相当であり、その間の休業損害は2,030,820円である。

(四) 逸失利益 3,492,514円

原告は明治44年(1911年)12月19日生の男子であり(弁論の全趣旨)、昭和51年4月17日当時満64歳4月であつたもので、その時の平均余命は13年余であるから、その時から満70歳4月になるまでの6年間は稼働可能であつたと考えられる。岡山労災病院に対する鑑定嘱託の結果によると、原告の後遺障害は6級を下まわることはなく、労働能力喪失率は67%を下らない。そうすると、原告の逸失利益は、1,015,410円×0.67×5.1336(ホフマン係数)=3,492,514円

(五) 慰藉料 520万円

前認定の傷害の部位、程度(右下肢の短縮と足関節の固定により日常生活に不便を感じていること)、入通院状況、後遺障害の等級(6級)、原告が高齢者であること等に照らすと、入通院中の慰藉料として金220万円、後遺障害に対する慰藉料として金300万円が相当である。

(六) (一)+(三)+(四)+(五)=14,473,172円

(七) 過失相殺 14,473,172円×0.7=10,131,220円

(八) 填補 9,235,050円

原告は、自賠責保険、任意保険から、治療費2,566,300円、休業補償1,668,750円、後遺症補償500万円の合計9,235,050円の支払を受けた(被告本人、証人三好文女(第2回)の各供述、弁論の全趣旨)。

(九) (七)-(八)=896,170円

(十) 弁護士費用 9万円

(十一) (九)+(十)=986,170円

(別紙明細書)

(イ) 帯江薬局購入

入院中薬シツカロール、アルコール、水枕、浣腸等前後六回分

合計金三、七九〇円

(ロ) ひるま薬局

ベビーパウダー

金三三〇円

(ハ) 茶屋町電化センター

帯江脳外科に使用のため購入、冷蔵庫代

金一〇、〇〇〇円

(ニ) 河田薬局

フルコート浣腸等その他、薬代二回分

合計金一、二一〇円

(ホ) 帯江外科

診断書料

金一、〇〇〇円

(ヘ) 安達漢方薬局

漢方薬(白南天と桔梗の根の混合)五回分

金七、〇八〇円(昭和五〇年一月―六月)

(ト) 藤原薬局

七回、化膿した所を洗浄する薬の購入代金

(自昭和五一年四月一〇日至五二年一〇月九日)合計金三〇、九〇〇円

(チ) 輸血代

金七〇、〇〇〇円 三五本

一本 金二、〇〇〇円の割合

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